ディスクユニオン様から、新譜CD『TOKYO FLASHBACK P.S.F.』到着。オーナーの逝去により消滅した日本の名レーベルP.S.F.Records の追悼盤です。すべて未発表音源、私も追悼のつもりで1曲だけ演奏を提供させていただきました。
1曲目のWHITE HEAVEN さんの演奏を聴いて、自分の音で語っていると感じ入りました。ある音楽の形だけを踏襲するのではなく、きちんと自分の言葉として音楽している人たちがまだいるのだなと、ほっとする感覚。私はロックからずいぶん離れたところに来てしまいましたが、若い頃にこういう音楽にたくさん触れていて良かったと、今でも思う事があります。
5曲目キム・ドゥスさん。韓国のアーティストでギター弾き語り、心の入った見事な歌に息をのんでしまい、このトラックを何度も繰り返して聴いたために、しばらく先に進めなくなってしまいました。私個人としては、このアルバムで最も心打たれたパフォーマンスでした。
7曲目 À Qui Avec Gabriel さんのアコーディオン・ソロ。この方は、ピアノの弾き語りを演奏してもアコーディオンを演奏しても、自分の美感を綺麗に音に入れる方で、温かな抒情性と、そこだけに沈殿するまいとするような先鋭的な感覚、このふたつのバランスの良さに、いつも高い音楽センスを感じさせられます。
10曲目灰野敬二さん。有名人だけに色々言われてしまう人ですが、実際のところは音楽に対するバランス感覚が抜群に優れている方と感じます。偏った音楽の聴き方や接し方はせず、それらを俯瞰した上でその髄にあるものを的確に捉える部分、ここが灰野さんの才能のうち、特に秀でた部分ではないでしょうか。
CD2枚目の冒頭、ヒグチケイコさん。これもセンスの塊、発想が見事でした。音楽を聴く時の私の歓びは、情動とフォルムのふたつによるところが大きい気がしていますが、うち情動面での刺激の役割は重要で、この局面に関して見事な感性を持っているパフォーマーだと改めて驚かされました。まったく同じ事を、4曲目冷泉さんにも感じました。こちらも実に見事でした。
9曲目平野剛さん。ギーゼキング演奏のラヴェル「版画」にはじめて触れた時のような感覚、最初の1音が紡がれた瞬間だけで、「ああ、私もこういう音楽家でありたい」と思わされてしまいました。40を過ぎてから特に感じるようになった事ですが、音に外連味を少しでも感じてしまうと、その人の出す音を受け入れられなくなっている自分がいます。音と自分の両方に、ごまかさずに正対してきた人だけが出せるような、逞しい年輪を感じさせる見事なピアノでした。
ディレクターを務めて下さった馬頭さん。馬頭さんはこのアルバムでライナーノートを記していますが、これらの音の背景のひとつを、自分の視点から描き出されています。これは時代の証言のひとつとして大変に価値あるものと感じながら読ませていただきました。
実はこのアルバムに関し、制作段階で、私自身が疑問を覚える部分がいくつかありました。そのひとつは、このアルバムを聴く人の利益です。追悼盤の収益は、長い闘病生活で多額の借金が残ってしまったレーベルオーナーのご家族に寄付されるとの事でしたので、追悼盤の制作やそこへの協力はまったくやぶさかではなかったのですが、しかし聴く人にはどういうメリットがあるのだろうかという疑問がずっとあったのです。しかしこうして完成したものを聴くと、ある時代思潮が見事に反映された、素晴らしい記録と感じました。生きた言葉に触れさせていただいたような喜びがありました。作曲も演奏もプロの手によるものが少ないので、正直のところ傷は多いです。しかし、プロ音楽家が得てして見失っている(あるいは犠牲にせざるを得ない)部分、音楽の髄にある大変に重要な部分を捉え、それをそれぞれの言葉で表現しているものが今もこれだけ生きている事、そしてそれを担っているのが、普段は他の仕事をしながら生きている市民である事に、感銘を覚えました。これは小手先でない現代日本の肉声のひとつ、見事なフォルクローレだと思います。発表は5月24日、既に予約は受け付けているようです。
http://diskunion.net/jp/ct/detail/1007359211?dss
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2017/05/18(木) 14:17:54 |
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