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Bishop Records blog

レコードレーベル"Bishop Records"の、最新情報やこぼれ話など。

マッコイ・タイナー逝去

McCoy Tyner_portrait 音楽を始めたのが遅かった自分にとって、ジャズは魅了されると同時に大きな壁。学ぶ時間も金もないので、レンタルCD屋でアルバイトをして、勤務時間中に店にあるモダンジャズのCDを片っ端から聴き、面白いと思ったものをジャズの和声法の本を見ながらあれこれとアナリーゼし、半分も理解できずに悶絶する毎日。おかげで、日本のチャート音楽を流すはずの店内が、私がバイトに入るとジャズ喫茶と化していました(笑)。

その時にヘヴィーローテーションしていた1枚が、マッコイ・タイナーの『Time for Tyner』でした。コルトレーン・カルテットや『サハラ』よりも夢中になった1枚で、「またそれ聴いてるの」と、よく一緒に店に入っていたバンドマンの先輩に呆れられていました。
聴音で部分転調を捉まえる事すら難しいレベルの初学者だった私にとって、『Time for Tyner』は脅威でした。長調でも短調でもない曲の和声付け、同じコード内で和声が変化して聴こえる術、なにもかもが魔術。コントラリー・モーションもパラレリズムも、名前すら知らない状態だったわけです。ハンコックの「Maiden Voyage」ですら、ドリアンではなくAm/Dぐらいに解釈し直さないと演奏できない頃では、理解しろという方が無理でしょうが、分かっていない頃というのは何が分かっていないかも分からず、そこには分からないが故の羨望もありました。

それでも尋常でない熱気だけは感じるもので、自分にとっては天才かと思うほどの音楽を、頭で考えるのではなく体から溢れ出てくるように音にしていく様に「ジャズ」を感じていました。知性を感じつつも野性だったのです。
私が若い頃にあこがれたジャズとは、ジャズ音楽のことではなく、ジャズマンのことでした。レイドバックした大人のシャンパン・ミュージックでも、あるスタイルを上手に模倣する発表会でもなく、地下室で汗を飛ばして音や命と格闘しながら前に進んでいく人間の事と受け取っていました。電気加工してお手軽に音響上の成果を出すヘヴィメタルやフュージョンではなく、和声付けやタッチを含めた表現に渾身の思いを込めてたたき出される音楽に惹かれたのは、青年の感性として健全なものであった気がします。身体や思想と等価の肉声と思えたからこそ、あそこまで痺れたのでしょう。それは音そのものではなく、音を通して見た人の事、人のあるべき姿への挑戦の事です。

マッコイやドルフィーの音楽を聴き、ジンメルやランボーやホーキングを読むことで、私は理屈ばかりのシニカルな批評家という青臭い青年期を卒業していったのだと思います。その後もずっと迷子ですが、「どうあるか」を常に考え実践していく姿勢は、この時に学ばせてもらった事でした。人につべこべ言う前に、自分でやる。言うなら、10年やってから言う。挙体全真、実践してきた人に敬意を払うことが出来る程度には恥を知る。ランボーが筆を折ってアビシニアに向かったのも、マッコイがエリントンから先に踏み込んでいったのも、フィクションではなく、行為された現実でしたから、彼らは口だけの人とはまったく違う舞台に上がった見事な実践者であり具現者であって、私には英雄でした。
マッコイ・タイナーの素晴らしい音楽に触れることが出来た事は、自分の人生にとって大きな幸運でした。マッコイさんは、与えられた人生を見事に生き切った実践者だったと思います。合掌。
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  1. 2020/03/07(土) 18:05:03|
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